A:暴走兵器 魔導ヘルズクロー
ガレマール帝国といえば、魔導技術で有名だ。だが、それも万能というわけではないらしい。
整備不良が原因なのか、あるいは改良に失敗したのか。
帝国兵のコントロールが効かなくなった魔導兵器が暴走しているようだ。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
東ラノシアの西部、レインキャッチャーと呼ばれる樹林がある。レインキャッチャーというのはこの樹林に生息する野草で赤い大きな花をつけるのだが、その花が雨水を受ける皿のように見える事からそう呼ばれている。そのレインキャッチャーが群生していることからこの樹林はレインキャッチャーと呼ばれるようになった。この地域は温暖な気候に加え、海に近いこともあり湿気が多く、樹林と言っても亜熱帯のジャングルの様相を呈していて、樹林の奥には沼地があるほど足元が悪い。
第七霊災前までは林業が盛んでジャングルの奥にも林業に携わる者が暮らす集落があり「切られた革紐亭」という酒場があった。第七霊災後、霊災の影響を受け凶暴化した魔物が樹林に住み着いたため人が寄り付かなくなり集落は廃れた。今は酒場の廃墟だけが人がいた証だ。
この廃墟にドレストという男が住み着いている。この男はガレマール軍の脱走兵らしく、ガレマールの魔導兵器に詳しいかもしれないとアドバイスされ訪ねてみる事にしたのだが、ドレストは心を病んでいて、少し話しては度々発作のようにパニックになるという具合でなかなか聞取りは進まなかった。
あたし達は半ばあきらめながら本題へと話を進めた。するとドレストは魔導兵機ヘルズクローの暴走に話が及ぶと途端に饒舌に話し始めた。
「あの暴走は機械的なエラーじゃない。」
ドレストはそういった。
「皇帝の下、一枚岩に見えるガレマール帝国も内情はそうでもないって事だ。特に前線で命を張る兵士は内心早く祖国に帰りたくてしょうがないんだ。生きている今帰らないと、明日は死んでいるかもしれない、そんな脅迫観念に捕らわれるんだ。」
「だからヘルズクローに細工したの?」
顔の前を飛び回る小虫を手で追いながらあたしが聞いた。ドレストは首を横に振りながら言った。
「さぁな、俺じゃない、聞いた話だ。本当に細工したのかどうかも分からない。だがヘルズクローは確かに暴走した。」
その時だった。
廃墟の外から木々を踏み倒すような大きな音が聞こえ、それが沼地の泥を叩く音が聞こえた。驚いて相方は床に置いた剣を取り上げ中腰の姿勢でドレストに聞いた。
「あいつ、敵の居場所も検知できる?」
ドレストは再びパニックを起こしているらしく頭を抱えて丸くなっている。答えはなかった。
密集した木々を軽々と倒す力があるなら、床も屋根も湿気で腐った廃墟を潰すのは容易い。ここに居たらこの小屋ごとぺしゃんこにされる。あたしと相方は小屋を飛び出した。
すると、小屋を取り巻く沼地の向こうから機械的な淡い光を発しながらフワフワと宙に浮いた掌のようなものがゆっくり近づいてくるのが見える。苦笑いしながらあたしは言った。
「思ってたよりでっかいね・・・・」
大きさで言うなら掌の付け根から一番長い中指に当たる部分の頂点までが5m程、それが地面から2mほどの高さに浮いているのだからそれこそ建築物が迫ってくるかのような圧迫感を感じる。
このサイズなら剣でビシバシというより魔法でドッカンドッカンといった戦い方がセオリーよね。あたしは相方に目配せする。相方は少し残念そうに笑って見せた。
どっちにしろ詠唱する時間は稼いでもらわなくてはならない。相方は鞘から剣を抜き放つと高床になった小屋の入り口から飛び降りるとヘルズクロ―の前を挑発しながら横切るようにして走った。